全4回:ブランディング会社のセルフリブランディングストーリー #04
2023年8月に企業理念やサービスの見直しをはじめ、ブランドロゴやWEBサイトの一新など、会社全体のセルフ「リブランディング」を行ったブランディングカンパニー「エフインク(F-INC.)」。構想から数年越しで行われたリブランディングの目的や込めた想い、デザイン表現についてなど、数多くのブランドのリブランディングを手がけてきたブランディング会社ならではの視点を交えながら全4回の記事でお届けいたします。
今回のリブランディングでは、「パーパス」や「DNAブランディング」、「ブランドロゴ」などを新たに掲げたことに加えて、「ブランドWebサイト」もリニューアル。新しいブランドカラーやブランドロゴを印象付け、これまでの実績なども見やすく整えられました。最終回の第4回はインタビュアーの「今井 夕華」さんに、全体のプランニングやディレクションをはじめ「ブランドWebサイト」の制作などを担当いただいたパートナー「株式会社ingraft」のお二人から当事者ならではのエピソードを引き出していただきました。
パートナープロフィール
2018-2020年SHIFTBRAIN inc.での出会いがきっかけで、山本真也・津留正和が2022年5月に設立。プロデュース/プランニング/ディレクション/プロジェクトマネジメントを強みとして、CI/VIの策定から、ウェブサイトや映像等の制作業務まで幅広く手がけている。
2011年よりSHIFTBRAIN inc.でプランナー、プロデューサー、クリエイティブディレクター等を歴任し、2020年からは執行役員COOとして従事。2022年5月にingraft inc.を共同創業し現職。クライアントと制作チームの垣根を外し、ひとつのチームとしてベストなパフォーマンスを引き出すことが信条。これまでの主な受賞歴は、Red Dot Design Award、Communication Arts Award of Excellence、FWA、Awwwards、日本サインデザイン賞など(いずれもSHIFTBRAIN inc.在籍時)。
プロデューサー/プロジェクトマネージャー
津留 正和さん
2009年よりamana inc.で写真・映像制作のプロデュースに従事。2018年よりSHIFTBRAIN inc.でプロジェクトマネジメントチームのチームリード。2020年からはkusabi inc.にて、広くコンテンツクリエイションのプロデュースに従事。プロジェクトオーナーの課題や願いを適切に理解した上で、クリエイティブ制作まで首尾一貫したプロジェクトマネジメントを心がける。人の熱量を最大化することに喜びを感じる人。自動BGM構築システム『AISO』のメンバーとしても活動中。
1. リブランディングパートナー「ingraft」が大切にする思い
前回までに紹介した通り、ブランディングカンパニーエフインクでは、会社の軸となる「パーパス」や「DNAブランディング」の策定、「ブランドロゴ」や「ブランドカラー」の決定など、セルフ「リブランディング」を行ってきました。その一方で、新しい「ブランドWebサイト」の制作は以前から付き合いのある「株式会社ingraft」(イングラフト)のお二人が担当。まずはingraftが大切にしている思いからお伺いします。
山本「社名の “ingraft” とは『接ぎ木』の意味です。チームで取り組むプロジェクトは、異なる能力や個性、アイデアを持ったメンバーが混在するもの。個々の能力の単なる足し算でなく、想像以上の成果を生み出すこと、そのために適切につなぐことを目指しています。今回も、その思いを軸に置きながら進めるよう心掛けました」
新しいエフインクの姿を発信する、重要な手段である「ブランドWebサイト」。そのWebサイト制作を「ingraft」に依頼した背景には、どのような経緯があったのでしょうか。
津留「今回のWebサイト制作は、エフインク代表の萩原さんからいただいたお話でした。以前勤めていた会社で、2年間ほどエフインクと合同で進めるプロジェクトがあったんです。そのとき、僕としては初めてやることばかりで、ひたすらあくせく働いていたので、もしかしたらその姿が萩原さんの印象に残ったのかなと。こうして独立した後に声を掛けていただけて、とても嬉しかったです」
Webサイトの枠組みだけでなく、コンテンツ開発からテキストまわりの編集、写真やイラストまで、総合プロデュースできるのがingraftの強み。その強みを生かし、今回のWebサイト制作においても総合的に携わります。
2. 第三者の視点で「ブランド」を捉え直す
エフインクのリブランディングと同時進行で行われたコーポレートWebサイト制作。通常リブランディングが定まってからWebサイトをつくる流れになりますが、今回はリブランディングとサイトの制作を同じタイミングで行うことになりました。
山本「リリースに向けてスピード感をもってやっていくなかで、効率的な作業分担が必要でした。エフインクからWebサイトについて引き継がれたときは、今までのサイトで表現できていなかった点が整理された状態で。そこにどんなコンテンツを入れるか、どこを強調して伝えるか、サイトの設計段階から一緒に話し合い、進めていきました。『ブランディング会社がもつブランド』ということで、多方面からシビアに見られる緊張感がありましたね」
津留「エフインクのメンバーとは、真剣な話し合いのあと、一緒に飲みに行かせてもらったことがあって。そこでフランクに話した内容も、今となってはかなり重要だったなと思います。エフインクをエフインクたらしめている理由や、今後の勝ち筋について伺ったり、外部ユーザーの目線で、僕たちが自由に意見したり。飲みの場だからこそ、思いをより率直にぶつけられました」
繰り返される話し合いのなかでも、印象的だったというのが「色(ブランドカラー)」の話。
津留「『会社を色で例えると何色か』という話をしたんです。そのときに『無色かもしれません』って話になって。それを聞いた上でエフインクの実績を眺めてみると『エフインクカラー』みたいなものが、いい意味で存在しないんです。それってすごいことですよね。クライアントを染め上げるのではなく、すくい上げるみたいなイメージ。そのアプローチ方法が、誠実に向き合うエフインクらしさだと思いました」
山本「僕が最初に頭のなかで考えていたのは『変化に強く、進化を止めないブランドを、ともにつくる。』というキーワード。話し合いを重ねるなかで、自然と出てきた言葉でした。新しいWebサイト上でも使われていて、早い段階で決まりましたね。ここから全体的な方向性が見えてきたように思います」
3. 愛され続ける「ブランドWebサイト」をつくる
「ブランドWebサイト」の制作を任されたingraftですが、ただ単にきれいなサイトをつくって終わり、ではありません。そこに「ingraft」のもつ強みと、お二人の思いが現れます。
山本「エフインクは、同業他社と比べても抜きん出た実績や歴史を持っています。それを堂々と見せるWebサイトにすることを、まず第一に考えました。ただそれ以上に、なぜ今サイトをリニューアルする必要があるのか。それがエフインクの未来にとってどんな意味があるのか。そこを理解して表現に落とし込まなければ、リニューアルの成功はないと思っていて。だからこそ、話し合いを重ねてエフインクを知り、情熱をもって取り組んでいきました」
何のためにやるのか。本質に目を向け、クライアントやブランドを理解することに対して全力でエネルギーを注ぐ。エフインクも、そんなingraftの姿に信頼を置いています。
津留「Webサイトってどうしてもブランドの本質になるんですよね。『Webサイトをつくってください』というだけのオーダーは多いですが、僕らはまずはブランドが大事、という意識があります。その上でサイトに使用する写真やイラスト、言葉のトーンなどが決まる。企業とWebサイトが同じ人格として、同じような生き方で、止まらずに在り続けて欲しいです」
4. 「ブランド」の背景を正しく理解し、表現に落とし込む
エフインクの思いを汲み、生まれ変わった「ブランドWebサイト」。具体的にはどのような点が新しくなったのでしょうか。デザイン面と技術面の両方から、詳しく伺います。
山本「デザイン面では、新しいエフインクが表現している佇まいを反映し、信頼感や重厚感がありつつ、それでいて若さや勢いを感じるものを目指しました。実績などのコンテンツが素晴らしいので、小手先の装飾を加えることはしていません。質実剛健、全体的にシンプルながらも、ありきたりにならないように意識しました。技術面では、以前のサイトで使われていたMovable TypeのCMSから、今後の拡張性やメンテナンス性、運用コストなどを考慮し、全てWordpressに移行しました」
「ブランドWebサイト」が完成し、サイトの更新を実際に担当するのはエフインクの中野さん。中野さんはingraftがサイトのシステム上に効かせた小技に感激したといいます。
山本「僕たちがつくるサイトは『生きているサイト』でありたいんです。思いや情熱が乗っていれば、おのずとサイトも成長する。裏側のシステムも、本当に地味な部分だけど、更新する人がちゃんと更新したくなるよう、なるべく整えてわかりやすくしていて。見てくれる人と同じくらい、更新する内部の人のことも大事に考えるようにしています。その一工夫ができるかどうか。何が大切かって結局は愛ですよね(笑)」
今回のセルフリブランディングで、第三者として参画した「株式会社ingraft」のお二人。「大切なのは愛です」と繰り返し笑顔で語る姿に、お二人の人柄と今回のWebサイトに込めた想いの強さが伺えます。たくさんの工夫が散りばめられたWebサイト。ぜひじっくりとお楽しみください。
全4回に渡りご紹介してきた、エフインクによるセルフリブランディングストーリー。ブランディングを考える方にとって、なにかの参考になれば幸いです。
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記事を書いた人
編集者、バックヤードウォッチャー。アーティスト、研究者、専門家、職人さんなど「何かが大好きでたまらない人」たちの専門的な話を分かりやすく伝えています。人間味あふれるバックヤードが大好きです。
株式会社アフロ入社後写真部アシスタントとして勤務。その後ビーム・バイ・テンへ入社し、フォトグラファー佐藤孝仁氏に師事。以降フリーランスとして活動した後、目黒区柿の木坂に個人事務所 Studio Functionを設立。