東急歌舞伎町タワー
2024年01月12日

新しい時代の「ブランドロゴ」表現 -ダイナミックアイデンティティ-

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記事を書いた人

ブランディングディレクター

大規模商業施設やリゾートホテルをはじめ、企業やカフェなど幅広いジャンルの案件に対し多岐にわたりブランディングを推進。『脳みそから血が出るくらい考えているか』を常に自分に問いただしながら、クライアントさえ気づけていないブランドの進むべき道や可能性、デザイン表現をご提案できるよう日々挑戦中。

1. 新たな「ブランドロゴ」表現「ダイナミックアイデンティティ」とは?

会社や商品・サービスなど、あらゆるブランドの「ブランディング」において最も大事な要素の一つであり、印象やコミュニケーションを大きく左右する「ブランドロゴ」。ビジネスにおいて『優れたブランドロゴによってイメージを向上させたり成長を加速させたい!』とお考えの方も多いのではないでしょうか?

 

そこで今回は、エフインクが「ブランドロゴ」のデザイン開発をサポートした話題のスポット“東急歌舞伎町タワー”を例に、数多くの「ブランドロゴ」開発を担当してきたエフインクのデザイナーがこれからの時代に相応しい「ブランドロゴ」の表現手法である「ダイナミックアイデンティティ」をご紹介します。

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2. 「東急歌舞伎町タワー」とは?

東急歌舞伎町タワー 施設概要

本施設は東急グループが今後東急沿線以外の街づくりを手がけていく第一歩目にあたり、この地で長年愛されていたエンターテイメント施設“新宿ミラノ座”の歴史や文化を継承し、進化させ、多様性ある歌舞伎町の新たなイメージや街の文化、観光拠点を地域と共に創出していくという意図があります。施設コンセプトは「好きを極める」。周辺エリアで最も高さのある「ホテル×エンターテインメントの複合施設」として、オフィスは一切なくエンターテインメントに特化し、ハイランクのシアターやライブラウス、劇場、フード、デジタルコンテンツなどを通じて「好き」を生み出すストーリーやライフスタイルを提案し続ける施設です。約4,000枚のガラスが使われた特徴的な外装は、しなやかさや柔らかさがありながらも活気や賑やかさが湧き上がるイメージを、かつてこの地に流れ街の活気を創出していた「噴水」をモチーフにしています。2023年4月14日開業。

3. 「ダイナミックアイデンティティ」とは?

昨今のデジタルデバイスやAIなどの普及に伴い、スマホやサイネージ、建築物の外壁、施設や店舗の内外装、個人からの自己発信に至るまで様々な要素がメディア化し、社会環境もめまぐるしく変化し続けています。このような時代でブランドが成長し続けるためには、ブランド自体も常に変化に適応し続けなければいけません。

 

その時代背景を受けて注目を集めているブランドロゴ表現の手法が「ダイナミックアイデンティティ」です。固定的で同じ表現を訴求し続けるべきと信じられてきたブランドロゴは、メディアや目的などに応じて有機体のように変化しつづけるダイナミック(動的)な表現へと進化し、海外のメジャーブランドをはじめ、多くの日本のブランドも積極的な採用が始まっています。

4. 「ダイナミックアイデンティティ」の役割やメリット

メディアでブランドの想いやメッセージを表現することを優先させる場合、静止画のみのロゴ表現だけでは、動画や音響を生かかせるメディアにおいてその自由度の高い表現力を生かすことが出来ず、ブランドの世界観を十分に発揮できない場合があります。

 

しかしダイナミックアイデンティティを導入することにより、下記の例にあげたように様々な展開が可能となりますので、メディアに最適かつ魅力的な表現を行うことが可能になると共に、日々生まれる新しい技術やメディア、アーティストなどとの相乗効果によって無限大に進化し続け、常にブランドのイメージを新鮮な状態に保つことが可能となります。

「ダイナミックアイデンティティ」の展開例

① ロゴの一部もしくは全体の色を変更できる。

② ロゴに写真を当てこむことができる。

③ ロゴの高さや横幅を変更できる。

④ ロゴに使用している要素の位置を動かすことができる。

⑤ ロゴの展開にお客さまを参加させる。

⑥ AIによるパターンの自動生成。

など

“東急歌舞伎町タワー”のコンセプトは「好きを極める」。施設自体がリアルやデジタルなど様々な要素を融合したメディアであることをはじめ、多様性に重きをおき、常に新たなイメージを世界に発信し続けるという目的からしても、ダイナミックアイデンティティは最も相応しい手法であると考え、私たちからご提案させていただきました。

「ダイナミックアイデンティティ」の展開イメージ

※展開イメージのため、実際の使用とは異なります。

5. 東急歌舞伎町タワー「ブランドロゴ」制作プロセス

① 展開を把握する。

変化し続けるダイナミックアイデンティティですが、このような商業施設の場合、施設内外のサイン設置場所や設置スペースのサイズなど固定的な要素も非常に重要となるため、まず最初にサイン展開をできる限り把握します。

 

それらを踏まえた上で様々なメディア展開を把握するプロセスを踏むことにより、設置スペースに相応しいロゴの縦横比や、サイン製造や視認性を考慮した線の細さ、シンボルマークやカラーをつけるかどうかなどの判断が可能となり、方向性が絞られた状態でロゴ制作に取り組むことができるため制作のスピードや精度が格段に向上すると共に、実現性かつ有効性のあるダイナミックアイデンティティを構築することがきます。

② 最も伝えたい想いを探る。

私たちはコンセプトや施設概要がある程度定まった状態から参画させていただきましたが、ロゴとして何を最も伝えるべきかは定まっていなかったため、ロゴ案を通じて双方に理解を深めながらフォーカスしていきました。

東急歌舞伎町タワー ブランドロゴコンセプト
“東急歌舞伎町タワー”のブランドロゴは、ピアノの鍵盤や⾳響機器のイコライザーといったエンターテインメント性や本施設の外観のモチーフである噴⽔の要素を内包したデザインエレメントと、⽂化やコンテンツなどさまざまな要素からなる歌舞伎町の多様性を表現したロゴタイプで構成し、本施設が歌舞伎町エリアと⼀体となり、さらなる賑わい創出に寄与していきたいという願いが込められています。

最終的に決定したコンセプトは上記の通りです。

 

今回のようなインバウンドもターゲットとした商業施設の場合、年齢や性別、国籍を問わず全てのお客さまが想いを理解いただける分かりやすいモチーフや図形が必要となります。多くの人に愛されるブランドロゴを制作するには、足し算ではなく引き算の考え方で、できるだけ要素をそぎ落とし「最も伝えたい想い」にフォーカスすることが重要となります。

最終決定したブランドロゴはシンボルマークもロゴタイプも同一の縦線のみで構成することで「さまざまな要素が一体となり進化し続ける姿」を表現しており、この場所から新たな「好き」や「出会い」「創造」などが生まれることを願って、イコライザーや噴水などわかりやすいモチーフを表現した上で、あえて見る方によって様々な捉え方をできるようなブランドシンボルをご提案いたしました。

③ 運用ルールを設けブランドイメージを管理する。

“東急歌舞伎町タワー”のブランドロゴは「ロゴタイプ」と「デザインエレメント」の2つで構成されており、「ロゴタイプ」は施設名称をブランド化するために変化させず、「デザインエレメント」の部分がダイナミックアイデンティティとして「色や高さの変更、動きをつける」などの様々な変化を行える要素となっております。

 

ダイナミックに変化する要素はインパクトがあり、あらゆるメディアに対応できるため非常に魅力的ですがその反面、特に今回のように膨大な人が携わるプロジェクトの場合、理解度や立場、スキルもさまざまのため、ふさわしくない使用が行われ、ダイナミックアイデンティティがブランドイメージを損なう要因となる危険性があります。

そのため、一見矛盾するようですが「自由に変化していくための厳格な使用ルール」を策定し、ブランドデザインマニュアルにまとめ、管理していくことがダイナミックアイデンティティを採用する上で非常に重要となります。

 

策定する使用ルールは多岐にわたり、カラーパレットや背景色の設定、推奨使用書体設定、基本的な変化させるルール策定、想定されるメディアの別の使用ルール策定などマニュアルとして策定していくための専門的なスキルや労力が必要となりますが、策定することでブランドイメージを損なう危険性を少なくすることはもちろん、使用時の迷いがなくなることによる制作スピードアップや、携わる誰もが正しく魅力的な表現を行えるようになるなど、より一層ブランドの魅力的な訴求が可能となります。

6. さいごに

「ブランドロゴ」制作をはじめ、ルール策定やブランド戦略など、ハードルも高い「ダイナミックアイデンティティ」ですが、「ブランドアイデンティティ」を効果的に伝え、社会にインパクトを与える素晴らしい手法であることに間違いはありませんので、「ブランディング」をお考えの皆さまに、本記事が参考になれば幸いです。

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